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【コラム:クリエイティブ】100円の広告クリエイティブ論~インターネット広告の価値基準とは?!~

[07年07月31日]

TAGBOATというクリエイティブ・エージェンシーがある。
広告業界の人間なら知らない人はいない会社だ(業界外でも有名か)。

それは、メディア・コミッションが支配する日本の広告界において、クリエイティブ・フィーで会社を成り立たせている、稀有な存在である。
希望の光と呼んでもいいかもしれない。(参照:magabon

クリエイティブに対してお金を払う文化はこの国にもあるが、他の国々と比べるとなんというか、その“格”が随分違う。
クリエイティブが認められていないわけではないが、しっかり取り合ってもらえるだけの権威がないのである。

これはクリエイティブの質に問題があるというより、日本の広告業界が持つ構造的な問題だろう。

広告のクリエイティブとは特殊な存在で、それは「作品」と呼ぶにふさわしいものではない。
広告クリエイティブとアートの決定的な違いは、“作らせてもらっている”という状況の有無にある。

広告は、作りたいからと言って作れるものではない。
クライアントの庇護の下でしか成り立たないものだからだ。

その上、広告クリエイティブの価値は、完全に可視化する事ができない。
インターネット広告ではCTRやCVR、CPAなど様々な指標で効果測定を行うが、その広告が及ぼした影響の「影」を捉えるに過ぎず、実像として全体を見ることは叶わないのである。

だから、クリエイティブの「本当の値段」はよく分からない
本当の、というところが既に胡散臭いが、平たく言えば値段はあってないようなものである。

「海外に比べて日本が安いと言ったくせに、値段はあって無いようなものってどういうことだ!日本が適正価格かもしれないじゃないか!」
というお怒りは、もう少し待っていただきたい。

問題は金額そのものではなく、金額に現れる認識の差にある。
『このくらいだろう』とか『そういうものだろう』の程度に、明らかな違いがある。
些細な差としてしか現れないが、問題の根は相当深いのである。

制作費が高いから面白くなるわけでもないし、安いからつまらないという言い訳が許されるわけでもない。
風とロックのクリエイティブ・ディレクター 箭内道彦氏などは以前、「どうせなら1億か100万がいい。なまじ1,000万だと中途半端になってしまう。」という旨の発言をしていた。

これも金額そのものが問題ではない。
1,000万で予算を組んでいるクライアントがダメ、ということでは決してないのだ。

お金とクリエイティブの関係について、「そういうものだから」と流さずに、改めて考えることが必要である。
『インターネット広告は安上がりだからいい』という“常識”が蔓延しつつあることに、私は哀しさとともに、恐さを感じる。

お金というのは、社会を成り立たせる中心であるから、その数字の大小に目が奪われがちである。
しかし、「お金」そのものについて考えられる事はあまりない。
広告もマーケティングも、経済学も、経営学も、人が関わるもの全てにお金が関わるのであって、お金を知ることは即ち人間を知ることにつながる。

経済学者のシューマッハは、
私の名前は『靴職人』だが、よい靴屋は靴作りの知識だけに長けていてもダメなことを心得ている。足そのものに対する知識が必要なのだ。」

と言ったが、まさしくその通りである。
人間を対象とするものが人間そのものへの理解を欠いていては本末転倒だ。

コピーライターとして思い出されるのは、糸井重里氏がある授業で『100円を捨ててきなさい』という課題を出した時の話である。
「面白かった」という者から、「歩道橋の上からトラックの荷台に100円を落としたんだけども、あれが旅にゆくと思うとおもしろかった」という理屈っぽい者まで様々いたが、糸井氏が『最悪』と評価するのは「ジュースを買って飲みました。捨てたと同じです」という答えだった。

なぜなら、大切なのは「100円玉に価値がある」という前提そのものを捨てることにあるからだ。
『先入観』や『常識』といった言葉でくくられる大前提を捨て去った時に感じる不思議を経験することに意味があるのであり、100円を“いつもの100円”として扱っていては意味が無いのだ。

人間に刺さる表現は、人間を知ることから生まれる。 人間を知るためには、人間が“前提”そのものから疑問視し、覆していく必要がある。

このコラムの値段は100円も無いかもしれないが、100円クリエイティブ論の価値はなかなかに大きい。
「1円を笑うものは、1円に泣く」と言われてうなずいているのではなく、「1円を笑うものは、100円で100倍笑える」と言い返してみせる。

それが、クリエイティブという仕事なのである。




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